【後編】IHFワールドチャンピオンシップ観戦記 in メッス


前編をまだ読んでいない方は、先にこちらをお読みするのをオススメします!! → 【前編】IHFワールドチャンピオンシップ観戦記 in メッス

 

“アイスランディック”パブを後にし、試合会場であるアレーナ・ド・メッスへと向かった。会場は、モーゼル川が流れる市街地とは駅を挟んで反対側、建築家の坂茂意匠が手がけたことで知られる美術館ポンピドゥセンター・メッスの真裏にある。2002年に建設された5,000人強を収容出来る多目的アリーナで、主に女子ハンドボールの強豪Metz Handball(メッス・アンドバル)が利用している。

 

ボディチェックと手荷物検査を通過してアリーナの中へ入ると、多くの観客がホワイエに設けられている飲食売店の前でビール片手に談笑していた。フランスだけに限らず、欧州の多くの国ではビールがハンドボール観戦の友だ。これまでドイツ、フランス、ハンガリー、ポーランドでハンドボールを観戦して来たが、観客たちは例外なくビールを片手に携えている。観客全員がハンドボールだけでなく、その時間や雰囲気を楽しんでいるのだ。

 

5,000人強の規模のホールというだけあって狭く造られており、観客席の傾斜もきついがゆえに、臨場感を感じられる。購入した席の付近に行くと、目の前には大勢のスロヴェニアサポーターが陣取っていた。街中でアイスランド色に染まって来ただけに少し残念な気持ちはあったが、昨年ポーランドで行われたEURO観戦を通してスロヴェニアファンたちの熱狂度の高さを知っていたので、すぐに新たな期待に胸が高揚した。

 

試合開始が近づくにつれ席が埋まり始め、試合が始まる頃には満席となり、アリーナは5,054人の観客で埋め尽くされた。天井に吊り下げられたキューブヴィジョンで両チームの選手紹介が始まり、アリーナMCがフランス語と英語を混ぜて会場の観客を煽っていき、自身と会場の熱量が増していくのを感じた。しかしながら、その熱がスーッと冷めていくのを感じた。入場演出が期待を大きく下回る出来だったのだ。他会場では、暗転を利用した幻想的な演出をし、試合へのボルテージを更に高めてくれるのだが、この会場にいたっては明るいままのスモークと簡易的な照明装置のみだった。この試合の前に、ライブストリーミングで他会場の演出を見ていたため、失望が大きかった。暗転を利用した演出は室内スポーツが持つ長所である。会場の選定に際して最低限の条件として盛り込まれるべきであろう

 

ハーフタイムには、今大会のテーマBGMに合わせて観客が踊るダンスコンテストが行われた。キューブヴィジョン上でモデルとマスコットが見本を見せ、観客はそれに合わせて踊る。最も熱狂的に踊った人が画面上に映し出され、記念品をもらえる。誰もが見やすく参加しやすいこのような仕掛けは、退屈なアイドリングタイムを楽しくさせる最適な演出だと思う。何より短い時間内でコート上にアトラクションを設置・撤去する手間がかからない

 

試合自体は、良い意味で自身の予想を裏切るものであった。スロヴェニアのワンサイドゲームになるかと思っていた試合が、一進一退の攻防の末、スロヴェニアが地力の差を見せて薄氷の勝利を得たのだ。勝利の瞬間、目の前にいたスロヴェニアサポーターたちは歓喜に沸いていた。ところが、我々観客には見応えのあるゲームを見た余韻に浸る時間は与えられなかった。今大会は各試合完全入れ替え制で行われた為、係員たちが退場を促していたからである。また、グッズショップも迅速な入れ替えの為に閉鎖され、グッズを購入しようとしていた観客がショップ前で残念そうな表情を浮かべてうなだれていた。円滑な運営の為とはいえ、試合での体験を通してグッズ購入欲が高まった観客の購入機会が失われるのは顧客満足度を下げてしまっている。是非、考え直すべきポイントではないだろうか

 

 

今回は運営上、アリーナ内でファンが試合後に余韻を楽しめない為、代替空間としてアリーナ脇にHandball Villageというファン交流スペースが設けられていた。試合後に覗いてみようとしたが、入り口には長蛇の列が出来ていた。入り口で手荷物を検査する係員が1名のみで、混乱している状況にも関わらず、運営側が人員を増やそうとしないのだ。当然列は全く進まない。僕は帰りの電車の時間が迫っていたので入場を諦めたが、他にも多くの観客がしびれを切らして帰っていた。

 

日本においてカップ戦はとかく「試合を見せるだけ」に偏りがちである。しかしながら、今回のワールドチャンピオンシップはメッスのみならず、大会全体で「利益を上げつつ、如何にハンドボールをより魅力的に見せるか、観客に楽しい時間を過ごしてもらうか」という趣向が凝らされていた。会場毎における演出クオリティの差、総入れ替え制の短所、観客整理の段取りの悪さなど顕在化した問題はあったが、ポジティブな取り組みであるのは間違いない。

 

今大会には2019年に熊本で行われる女子ワールドチャンピオンシップに活かせる学びが多くあったと思う。大会運営担当者が会場へ足を運んでいたことを願うばかりである。
(文中敬略称)

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RyoheiKobayashi
1987年神奈川県藤沢市生まれ。ドイツ連邦共和国ラインラント=プファルツ州マインツ在住。日本ハンドボール協会ヨーロッパ特派員。
学生時代ドイツへ旅行した際に観たEHFチャンピオンズリーグRhein-Neckar Löwen対FC Barcelonaで感じた興奮と、Gudjon Valur Sigurdsson(Rhein-Neckar Löwen)によるファンサービスへの感動からドイツへの憧憬を覚える。
卒業後、東証一部上場メーカーで勤務するも、休暇を利用して訪れたドイツにて、THW Kielの広報、Füchse Berlinの事務局長へインタビューしたことをきっかけに、ドイツの地でプロハンドボールクラブのマネージャーになることを志し、退職して渡独。2017年春よりマインツ大学大学院国際スポーツマネジメントコースへ入学予定。
現在、入学準備を進める傍ら、代理人、通訳としても活動中。
好きな酒は、日本酒、球磨焼酎、ビア、ワイン

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