女子ハンドボール世界選手権直前レポート(対戦国、注目選手解説)


この強豪揃いのグループにおいて、日本はノックアウトラウンドへ進出するのに十分な力を持っていない。プレジデントカップ(グループ下位同士の順位決定戦)へ進む事になるだろうが、2020年東京オリンピックへ向けて多くを学ぶ機会になるはずである。

2017年ハンドボール女子世界選手権のアンバサダーを務めるグリト・ユラック(女子ドイツ代表最多キャップ保持者、1999/2007年世界選手権得点王)が、事前予想で日本に対して下した評価である。
一見、日本への評価は辛口のように思えるが、過去の実績を鑑みると現実的と言える。

リオ五輪王者ロシア、2013年世界選手権王者ブラジル、オリンピック最多優勝記録を持つデンマーク、2012年欧州選手権王者モンテネグロ。ユラックが語るように、12月2日から日本が戦うのは強豪国ひしめく所謂「死のグループ」であるからだ。

ドイツ北西部にある人口164,000人の都市オルデンブルク(Oldenburg)。12月2日から8日までの間ここで日本が対戦する5ヶ国を、先述のグリト・ユラックによるコメントを添えて紹介する。

1. ブラジル:12月2日(土) 17:45-(日本時間 翌1:45-)

世界選手権:2011年5位、2013年優勝、2015年10位
オリンピック:2008年9位、2012年6位(グループ1位)、2016年5位(グループ1位)

グリト・ユラック評:

ホーム開催のオリンピックで準決勝への切符を逃して以降、ブラジルは新監督を迎えて世代交代を進めてきた。スペインを強豪国へ押し上げたスペイン人の名将ホルヘ・ドゥエニャス監督のミッションは、ブラジルを再び世界のトップへ導く事。素晴らしい育成システムによって育ったメンバーは、(優勝した)2013年世界選手権の再現をするだけのポテンシャルを秘めていると思う。私はブラジルが準優勝すると予想している。

近年急激に力を付け、国際大会で目覚ましい結果を残しているブラジル。代表選手の多くはヨーロッパの強豪リーグに所属している。
注目選手は、ヨーロッパ最強チームGyőri ETO KC(ハンガリー)で長年活躍するレフトバック、エドゥアルダ・アモリム(Eduarda Amorim)。186cmという体格の良さを活かした彼女のパワフルなプレーを如何に食い止めるかが緒戦のカギとなるだろう。

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プレー動画


2. デンマーク:12月3日(日) 20:30-(日本時間 翌4:30-)

世界選手権:2011年4位、2013年3位、2015年6位
オリンピック:1996年優勝、2000年優勝、2004年優勝、2012年9位
欧州選手権:2012年5位、2014年7位、2016年4位

グリト・ユラック評:

デンマークには常に大きな期待をしてしまうが、若返りを図ったチームは数年前に比べて強さが戻ってきたと感じる。クラヴス・ブリュン・ヨルゲンセンは名将であり、サンドラ・トフトは素晴らしいゴールキーパーだが、平均年齢の低いこのチームにはまだまだ経験が不足している。ブラジルとロシアには劣っていると私は思うので、準決勝まで進むのは厳しいと考えている。

現行の7人制ハンドボールの母国デンマーク。近年ノルウェーに世界最強の座を奪われているが、昨年の欧州選手権で4位に返り咲くなど復調傾向にあり、日本にとって大きな壁となって立ちはだかるのは間違いない。

注目選手は、ユラックも挙げている名ゴールキーパー、サンドラ・トフト(Sandra Toft)
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サンドラ・トフト プレー動画

そして、日本代表ライトウイング池原綾香が所属しているニューコビンHK(デンマーク)の同僚であるプレイメーカー、クリスティーナ・クリスティアンセン(Kristina Kristiansen)。

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クリスティーナ・クリスティアンセン プレー動画

3. モンテネグロ:12月5日(火) 12:00-(日本時間 20:00-)

世界選手権:2011年10位、2013年11位、2015年8位
オリンピック:2012年準優勝、2016年11位
欧州選手権:2012年優勝、2014年4位、2016年13位

グリト・ユラック評

この若いチームがノックアウトラウンドへ行くのは簡単な事でない。ドラガン・アズィッチは2020年東京オリンピックを見据えて世代交代を断行したが、昨年の欧州選手権でグループステージを勝ち抜けなかった事から分かるように、まだトップレベルで戦うには十分な力を有していない。しかし、今大会強豪国相手に番狂わせを起こすポテンシャルは秘めていると思う。

人口は645,000人と東京都足立区に満たない小国だが、1970,80年代に世界を席巻したユーゴスラヴィアの伝統を引き継ぐハンドボール先進国である。
モンテネグロの強さは2010年から 自国の強豪ŽRKポドコリツァと代表チーム監督を兼務している指揮官、ドラガン・アズィッチ(Dragan Adžić)の指導力に依るものが大きい。

注目選手はポドコリツァ、現所属のCSMブカレスト(ルーマニア)で2度EHFチャンピオンズリーグ優勝を経験しているレフトウイング、マイダ・メーメドヴィッチ(Majda Mehmedović)。

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プレー動画

4. ロシア:12月6日(水) 14:00-(日本時間 22:00-)

世界選手権:2005年優勝、2007年優勝、2009年優勝、2011年6位、2015年5位
オリンピック:2008年2位、2012年8位、2016年優勝
欧州選手権:2012年6位、2014年14位、2016年7位

グリト・ユラック評

イェフゲニー・トレフィロフ監督率いるチームは、誰が最終的に選ばれてコートに立つのか全くわからない程謎に包まれている。しかし、リオ五輪を優勝したように彼のチームが持つポテンシャルは高い。欧州選手権予選でオーストリアに負けるという驚きがあったものの、ロシアが優勝候補の一角である事に変わりはない。

リオ五輪で金メダルを獲得し、かつての栄光を取り戻したものの、同年12月に行われた欧州選手権では本選でデンマークの後塵を拝して7位。代表選手のほとんどが自国リーグでプレーしている為情報が著しく少ないが、近年の成績を見る限り、日本にとって強敵である事は事実である。

注目選手はダルヤ・ドミトリイェワ(Darja Dmitrijewa)。U-18、U-20世界選手権で中核選手としてチームの準優勝に貢献し、22才の若さにして代表キャップ数75を数えるプレイメーカー。
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5. チュニジア:12月8日(金) 12:00-(日本時間 20:00-)

世界選手権:2011年18位、2013年17位、2015年21位

グリト・ユラック評

ヴィボーHK(デンマーク)で共にプレーしたモウナ・シェバーの事はもちろん応援している。(35才という年齢から)彼女にとって今大会が最後のチャンスになると思う。チュニジアにはフィットネスに富んだ選手が多いが、一進一退の展開の中での経験には欠けている。もし2チームに勝利してベスト16へ進出出来れば、チュニジアはアフリカハンドボール界の新たな希望となるだろう。

アフリカのチーム独特の不安定さと爆発力が日本に対してどう作用するか。日本は2015年の前回大会、現キャプテン原 希美(三重バイオレットアイリス)による9得点の活躍もあり31:21の大差で勝利しているので、その再現を期待したい。

注目選手はユラックも紹介しているモウナ・シェバー(Mouna Chebbah)。デンマーク、フランスリーグで数々の経験を積んだ35才の大ベテランである。
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プレー動画:

グループステージ終了後、1〜4位のチームはマクデブルク(Magdeburg)で行われるノックアウトラウンドへ進出する。5位はライプツィヒ(Leipzig)で、最下位はマクデブルクでプレジデントカップを戦う。

ユラックは日本チームへのコメントの中で、「2020年東京オリンピックへ向けて」と発言しているが、指導者や強化担当はそのような中長期的な考えを持っていて然るべきだと思う。しかし、選手にとって最も大切なのは“今この瞬間“である。

今日、明日怪我して選手生命を絶たれるかもしれない。

その儚さをわかっているからこそ、彼女らは目の前の戦いに全てを懸け戦う。
日本代表の選手たちには、ネガティブな下馬評など「それがどうした!」と笑い飛ばし、世界がアッと驚くような戦いを見せてくれることを期待するばかりである。

筆者は今大会、大会組織委員会からの派遣で専属のチームガイドとして日本代表チームに帯同する。期間中、出来るだけ多く、深く、現地から読者の皆さんへ情報を届けるようにしたい。

参照:第23回ハンドボール女子世界選手権 大会公式ホームページ(英語)
http://germanyhandball2017.com/home/

(文中敬略称)

RyoheiKobayashi

1987年神奈川県藤沢市生まれ。ドイツ連邦共和国バーデン=ヴュルテンベルク州マンハイム在住。日本ハンドボール協会ヨーロッパ特派員。
学生時代ドイツへ旅行した際に観たEHFチャンピオンズリーグRhein-Neckar Löwen対FC Barcelonaで感じた興奮と、Gudjon Valur Sigurdsson(Rhein-Neckar Löwen)によるファンサービスへの感動からドイツへの憧憬を覚える。
卒業後、東証一部上場メーカーで勤務するも、休暇を利用して訪れたドイツにて、THW Kielの広報、Füchse Berlinの事務局長へインタビューしたことをきっかけに、ドイツの地でプロハンドボールクラブのマネージャーになることを志し、退職して渡独。
現在、代理人、通訳としても活動中。
好きな酒は、日本酒、球磨焼酎、ビア、ワイン

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